AI で曲を作るとき、入口はだいたい2つに割れます。ブラウザを開いて文章を打ち込む Suno と、コードから呼び出す Google の Lyria です。

この2つを比べた記事はもうたくさんあって、多くは「どっちの音がいいか」を聴き比べています。実際に両方を動かしてみると、比べるべきなのは音だけではありませんでした。作り方の考え方がそもそも違う。

そこで、同じ歌詞と同じスタイル指定を両方に投げました。出てきた4曲をそのまま置いて、ファイルの中身まで測っています。

使ったのは Suno Pro(Custom モード)と、Gemini API の lyria-3-pro-preview です。

歌詞は自分で書いた

既存曲の歌詞は使えません。Lyria の公式ドキュメントには、著作権のある歌詞を求めるプロンプトは安全フィルタでブロックすると書かれています。

なので短いものを2本書きました。アップテンポのポップと、ピアノのバラードです。

ポップ(124 BPM / A major)

[Verse 1]
改札を抜けたら 七時の光
まだ何も決めてない それでいい

[Pre-Chorus]
鞄の中で 鳴りっぱなしの通知
ぜんぶ後回しにした

[Chorus]
連れて行って 名前も知らない街へ
息を切らして 笑っていたい
まだ間に合う まだ間に合う
そう言い聞かせて 走る

スタイル指定はこれです。

upbeat japanese city pop, 124 bpm, A major, bright female vocal,
sparkling electric piano, slap bass, crisp drums,
layered backing harmonies, energetic and hopeful

バラード(68 BPM / E minor)

[Verse 1]
灯りを消しても まだ眠れなくて
君の名前だけ 数えていた

[Chorus]
さよならは 言えないままで
季節が ひとつ 過ぎていく
覚えている 覚えているよ
最後に 手を振った あの角を
slow japanese piano ballad, 68 bpm, E minor, warm female vocal,
soft piano, subtle strings, brushed drums entering in the second half,
melancholic and tender

Suno は Custom モードで歌詞欄とスタイル欄が分かれているので、そのまま貼り分けました。Lyria には専用の歌詞フィールドがありません。セクションタグごとプロンプト本文に直書きします。これは公式のやり方で、ドキュメントにも同じ書式の例が載っています。

Suno は1回の生成で2バージョン出ますが、選ぶと「人が選んだ良いほう」対「一発出し」になってしまうので、先に出たほうをそのまま使いました。

4曲を並べます

先に断っておくと、Suno の出力は元が 48kHz / 16bit の WAV です。ページが重くなるので、配信用に 192kbps の MP3 へ変換しました(音量はいじっていません)。あとで出す実測値は元ファイルのものです。

ポップ

Suno(「まだ間に合う」/47.92秒)

Lyria(2分31秒)

バラード

Suno(「最後に手を振った角」/1分23秒)

Lyria(2分36秒)

どちらも日本語で歌っています。Lyria は対応言語に日本語が明記されていて、実際に歌詞どおり歌いました。ここは事前に半信半疑だったところです。

測ってみた

Suno ポップ Suno バラード Lyria ポップ Lyria バラード
生成時間 約37秒 約58秒 43.07秒 47.06秒
曲の長さ 47.92秒 83.44秒 151.88秒 156.21秒
フォーマット WAV / PCM 16bit WAV / PCM 16bit MP3 192kbps MP3 192kbps
サンプルレート 48,000 Hz 48,000 Hz 44,100 Hz 44,100 Hz
ファイルサイズ 9,200,812 B 16,020,652 B 3,651,099 B 3,755,170 B
Integrated LUFS -15.19 -15.25 -11.89 -11.30
True peak -4.06 dBTP -3.75 dBTP +0.30 dBTP +0.28 dBTP
歌詞の扱い 全行を1回 全行を1回 全行+もう一周 全行+スキャット36秒

Suno 側の生成時間はストップウォッチで測った体感値、Lyria 側は API の呼び出しから応答までの実測です。測り方が違うので、同じ条件の比較として読まないでください。

尺の決め方が正反対だった

Lyria の2曲は 151.88秒 と 156.21秒。差は 2.8% しかありません。歌詞が6行しかないバラードでも、11行のポップとほぼ同じ長さに着地しています。

足りないぶんは埋めています。ポップは Verse と Chorus をもう一周させ、バラードは最後の36秒が「Ooh」「Mmm」のスキャットでした。先に尺があって、歌詞をそこへ引き伸ばしている。

Suno は逆でした。2曲とも歌詞を1回歌い切って終わります。47.92秒と83.44秒で1.7倍の開きがありますが、これは歌詞の量ではなくテンポの差です。行数の少ないバラードのほうが長い。歌い終わるまでの時間がそのまま曲の長さになっています。

音の仕上げ方も違う

Suno は曲調が変わっても -15.2 LUFS にほぼ張り付いていました。2曲の差は 0.06 LU です。ピークにも 3.7dB 以上の余裕を残しています。

Lyria は -11〜-12 LUFS まで持ち上げていて、true peak が2曲とも 0 dBFS を超えました。サンプルピークも 0.0 dB で天井に張り付いています。これは歪みます。

大きいほうが最初は良く聞こえるので、聴き比べでは Lyria が得をします。素材として配ったり動画に乗せたりするなら、この状態はそのまま使えません。Lyria の出力は、リミッターを通す前提の素材だと思っておいたほうがよさそうです。

音楽としての出来は Suno のほうが上でした

並べて聴くと差があります。歌の表情も伴奏のまとまりも Suno のほうが自然でした。

そう感じる理由の一部は、上の数字にも出ています。歌詞が尽きたあとを反復とスキャットで埋めた曲は、聴いていて間延びします。ピークを潰して大きくした音は、最初は迫力があっても長く聴くと疲れる。「良い曲を1曲ほしい」という目的なら、いま選ぶべきは Suno です。

試したのは各2曲です。全ジャンルでそうだと言えるほどの数ではありません。

では Lyria は何のためにあるのか

Lyria は「Suno の劣化版」ではなくて、そもそも狙っている場所が違います。

曲と一緒に、歌詞のタイムコードが返ってくる

Lyria は音声とは別に、こういうテキストを返してきます。

[[A0]]
[[B1]]
[15.4:] 改札を抜けたら 七時の光
[:] まだ何も決めてない それでいい
[:] (それでいい)
[[C2]]
[38.4:] 鞄の中で 鳴りっぱなしの通知
[:] ぜんぶ後回しにした
[[D3]]
[53.8:] 連れて行って 名前も知らない街へ

[[A0]] [[B1]] がセクションの記号で、同じ英字は同じセクションの再登場を表します。[15.4:] はそのセクションが始まる秒数です。

この秒数、飾りではありませんでした。音源を別のモデルに書き起こさせて歌い出しの時刻を測ったところ、6区間すべて一致しています。15.4秒は本当に 0:15 から歌い出していました。

これがあると、歌詞の字幕を自動で作れます。動画の尺に合わせて曲を切る、サビの位置でカットを合わせる、といった作業がコードだけで完結します。Web の画面で曲をダウンロードしている限り、この情報はどこにも出てきません。

Suno の WAV を調べても、構成に関するデータは1バイトも入っていませんでした。

誰がいつ作ったのかがファイルに残る

Lyria の MP3 には C2PA のマニフェストが埋まっています。ID3 の GEOB フレームに 6,015 バイト。中身を読むとこう書かれていました。

action      = c2pa.created
description = "Created by Google Generative AI."
description = "Applied imperceptible SynthID watermark."
digitalSourceType = trainedAlgorithmicMedia
署名        = Google LLC / Google C2PA Root CA G3

Google の署名とタイムスタンプ、失効確認用の OCSP の URL まで入っています。「これは AI が作った音である」という証明書がファイルに同梱されていると思えばいい。しかもアップロードして配信し直しても消えませんでした。

Suno の WAV のほうは、チャンクを全部並べても fmt LISTdata の3つだけでした。ファイル全域を C2PA や SynthID で検索しても引っかかりません。入っていたのは、生成した日時と曲のIDを書いた1行だけです。

これで分かるのは「メタデータに記載がない」ことだけで、波形に不可聴の透かしが入っている可能性は残ります。Suno の公式ドキュメントにも透かしについての記述は見当たりませんでした。「入っていない」とまでは言えません。

ついでにひとつ。この曲IDは Suno の公開ページに解決するので、アカウント名まで辿れます。素材として人に渡すなら、消しておいたほうが無難です。

月額がいらない

Lyria は従量課金です。フル尺が1曲 $0.08、30秒のクリップが $0.04。月額はありませんが、無料枠もありません。

Suno は逆で、無料プランはあるものの商用利用はできません。Pro が月 $10 で 2,500クレジット、Premier が月 $30 で 10,000クレジット。クレジットは余っても翌月には消えます。

月に何十曲も作るなら Suno のほうが安く済みます。「月に2〜3曲、必要なときだけ」という使い方なら、$0.08 ずつ払うほうが安上がりです。使う頻度で素直に決まります。

Lyria は1世代前までインスト専用だった

「Lyria は歌えない」という説明を見かけますが、これは1世代前までは正しい情報です。

Vertex AI のモデルページに、世代ごとの対応表が載っています。

Lyria 2(lyria-002) Lyria 3
ボーカル生成 非対応 対応
歌詞の生成 非対応 対応
歌詞の持ち込み 非対応 対応
最大の長さ 32.8秒 184秒

Lyria 2 のドキュメントには、ネガティブプロンプトの例として "vocals, excessive cymbal crashes, distorted guitar" が挙がっています。ボーカルが「混ざってきたら困るもの」の側に書かれていました。

方針が変わったのは Lyria 3 からです。対応言語は日本語を含む8つ。

ややこしいのは、同じ Lyria の名前でも Lyria RealTime は今もインスト専用だという点です。リアルタイム生成のドキュメントには「instrumental music only」と明記されています。名前で判断すると間違えます。

Suno にも API の入口はある

この記事は「Web の Suno / API の Lyria」という軸で書いていますが、この構図がずっと続くとは限りません。

platform.suno.com というドメインが実在します。ページのタイトルは「Suno Platform」、説明文は「Manage your Suno API account」。本文には「Suno’s music generation engine behind a simple REST API」と書かれています。

ただし全ページがログイン必須で、suno.com 本体からはどこからもリンクされていません。2026年7月に Suno の CPO が「まず限られたパートナーから始める」と言った段階です。いまのところ、誰でも使える公式 API は公開されていません。

非公式のラッパー API を売っている業者もありますが、Suno の利用規約は「サービスが意図的に提供していない手段でコンテンツを取得すること」を禁じています。おすすめはしません。

どちらを使うか

曲そのものがほしいなら Suno です。1曲の完成度で選ぶなら、いまは迷う理由がありません。歌詞を渡せば、渡したぶんだけ歌って気持ちよく終わってくれます。

曲を何かの部品として使いたいなら Lyria です。動画に合わせる、生成そのものを自動化する。タイムコードが返ってくることと、月額に縛られないことが効いてきます。C2PA が入っているので、AI 生成であることを示す必要がある場面でも扱いやすいはずです。

AI で音楽を作ること自体には賛成です。ただし出てきたものを丸ごと自分の曲として出すのは、まだ無理があります。今回の4曲も、素材としては使えますが作品としてはそのまま出せません。

現実的なのは、アイデア出しと素材づくりです。頭の中にあるアレンジを30秒で形にして方向を決める。動画の下敷きになる BGM を用意する。この使い方なら、いまの精度でも十分に戦力になります。

Lyria はもともとこの用途に寄せて作られているように見えます。仕上げは人間がやる、という前提で置かれている道具だと思えば、今回の測定結果はどれも筋が通っていました。