2026年7月31日、ドイツのミュンヘン地方裁判所が、AI作曲サービス Suno の著作権侵害を認めました。音楽AIの学習にライセンスが必要だと明示した、ヨーロッパで初めての判決です。

自分が作った曲は配っていいのか。この記事はそこを整理します。

判決で何が認定されたのか

裁判所 ミュンヘン地方裁判所 I 第42民事部(著作権専門部)
事件番号 42 O 763/25
判決日 2026年7月31日
原告 GEMA(ドイツの音楽著作権管理団体)
被告 Suno Inc.
確定状況 未確定(Suno は控訴を検討中と表明)

対象になったのは6曲。Forever Young、Atemlos、Mambo No. 5、Rasputin、Big in Japan、Daddy Cool です。

裁判所が認めたのは、学習段階の複製と、出力段階の公の再生の両方でした。EU のテキスト・データマイニング例外(ドイツ著作権法44b条)についても、Suno の主張を退けています。楽曲がモデルのパラメータに記憶されて再現可能な状態になっているなら、それは「分析」の範囲を超えている、という理由です。

学習は米国で行われていましたが、裁判所は米国法を適用したうえでフェアユースは成立しないと判断しました。

決め手
歌詞を入れたら、原曲のメロディが鳴った
  • GEMA が「Atemlos」の歌詞だけを、メロディを指定せずに入力した
  • Suno は原曲のメロディを再生した
  • 裁判所は「偶然では説明できない」と判断し、モデルが楽曲を記憶していると認定した

学習データの入手方法についても認定があります。YouTube から rolling cipher を回避して音源を抜き出していた、というものです。これは AI と関係のない技術的保護手段の回避で、単独で違法になります。

禁じられたのは学習であって、あなたの曲ではない

この判決は「AI で作った曲を配ると違法」とは言っていません。争われたのは Suno が無許諾で学習したことで、被告も Suno Inc. です。

ただし、リスクがゼロになったわけではありません。責任の所在が分かれているだけです。

誰の問題か 争点
入口(学習データ) Suno 無許諾で学習したか
出口(生成された曲) 配布する人 既存曲に似ていないか

入口は Suno が金を払って解決する話です。実際、2025年11月に Warner Music と和解してライセンス契約を結びました。2026年にはライセンス済みモデルを投入すると表明しています。Universal も Udio と和解しました。

一方、出口の責任は配る側に残ります。

Suno の利用規約は、非侵害を保証していない

2026年3月26日更新版の利用規約を確認しました。Pro / Premier プラン加入者については、生成物の権利はライセンス許諾ではなく譲渡(assign)です。ただし「加入期間中に生成したもの」に限定されているので、解約後に作った分は対象外になります。

注意
規約で確認しておく3点
  • 著作権が発生する保証はない。「機械学習の性質上、いかなる著作権も生成物に帰属することを保証しない」と明記されています
  • 侵害していないことの保証もない。Pro / Premier に補償(indemnification)は付かず、逆にユーザーが Suno を免責する義務を負います
  • 他の AI の学習に使うことは禁止されています。競合サービスの開発に使うことも同じく禁止です

1点目からは、配布物の規約に「当サイトが著作権を保持します」と書けないとわかります。クレジット表記を義務づけるのも根拠が弱い。権利を主張するなら著作権ではなく原盤権ベースにしておくのが無難です。

配った曲が既存曲を侵害していた場合、責任を負うのは配った人です。Suno は費用も負担しません。

3点目は自分が負っている義務なので、第三者に配るなら転嫁が必要です。配布規約の禁止事項に「AI 学習データとしての利用禁止」を入れておきます

日本で侵害かどうかを決めるのは誰か

最終的には裁判所です。事前に「これは侵害ではありません」と判定してくれる機関はありません。非侵害を証明する手段は存在しない、というのが出発点になります。

実際には、その手前に何段階か見るところがあります。

配布先 誰が見るか
YouTube Content ID による自動照合
Spotify など配信 ディストリビューターの AI 楽曲ポリシー、権利者の申立て
自分のサイトで直接配布 誰も見ない

自サイトでの配布は Content ID にかかりません。気づかれにくい代わりに、気づかれたときは権利者から直接来ます。

判断は類似性と依拠性の2つで決まる

文化庁の「AI と著作権に関する考え方」(2024年3月)が整理していますが、判例上、著作権侵害の成立には類似性と依拠性の両方が必要です。片方が欠ければ侵害になりません。

類似性 既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるか
依拠性 その著作物に依拠して作られたか

独立に作ったのなら、どれだけ似ていても侵害になりません。偶然同じ旋律に辿り着いた2人がいれば、両方に著作権が発生します。

コード進行、リズムパターン、ジャンル、音色は、アイデアの領域なので誰も独占できません。江差追分事件の最高裁判決も「慣用的な音型の連続」は創作的な表現とはいえないとしています。音楽が似るのは前提であって、法はそれを許容しています。

ただし、依拠性の逃げ道が Suno では使いにくい

文化庁「AI と著作権に関する考え方について」より

AI 利用者が「その著作物が AI の学習データに含まれていないこと」を示すことができれば、依拠性が認められる可能性を低減させる要素となることから、AI 利用者にとっては学習データに関する適切な情報提供がされていることが有益である

裏返すと、学習データに含まれていれば、利用者が原曲を知らなくても依拠性が認められうるということです。そして Suno は学習データを開示していません。ドイツの判決で YouTube からの音源抜き出しが認定された以上、有名曲は入っていると考えるのが自然です。

依拠性 実質的な争点
人間の作曲 「独立に作った」と事実として言える 類似性と依拠性の両方
Suno 経由 否定しづらい 類似性の一本勝負

AI だから基準が厳しくなるわけではありません。

インスト・BGM は構造的に安全

インストゥルメンタルや BGM は、AI 音楽の中でも最もリスクが低い部類です。理由が2つあります。

1. 歌詞という経路が消える

歌詞は言語の著作物として独立に判断されます。インストにはこの経路がありません。GEMA が使った検証方法も成立しません。

2. 保護の中心は旋律にある

東京高判 平成14年9月6日(記念樹事件)

少なくとも旋律を有する通常の楽曲に関する限り、著作権法上の「編曲」の成否の判断において相対的に重視されるべき要素として主要な地位を占めるのは旋律である

和声とリズム・テンポは、旋律の判断を補う位置づけです。コード進行やリズムパターンが単体で決め手になることは基本的にありません。BGM は旋律の輪郭が弱くテクスチャ寄りになるほど、保護対象の中心から離れていきます。

記念樹事件はメロディの約72パーセントが同じ高さの音という水準で、ようやく侵害が認められたケースです。日本で音楽の著作権侵害が認定された判例自体、数えるほどしかありません。

それでも残る3つのリスク

特徴的なリフやフックは旋律です。歌がなくても「あのリフ」で曲が特定できるものは、保護される旋律そのもの。印象的なフックほど危ないのは歌ものと変わりません。

プロンプトの固有名詞。アーティスト名や曲名を書くと、モデルが記憶している具体的な特徴を引き出しにいきます。「lo-fi hip hop」は問題ありませんが、特定のアーティスト名を添えた瞬間に性質が変わります。

原盤権は別枠です。著作権とは別に、既存の録音そのものに近い音が出た場合は著作隣接権の問題になります。判決で再現可能と認定された以上、ゼロとは言えません。

なお YouTube の Content ID はオーディオ指紋の照合で、旋律の類似を見ているわけではありません。新規生成のインストがヒットすることはまずない。ただしこれは見つかりにくいだけで、侵害かどうかの判断とは関係がありません。

配布前のチェックリスト

実務
Suno の曲を配る前に
  • Pro / Premier に加入している期間中に生成したものか。解約後の生成分は譲渡の対象外です
  • プロンプトに既存のアーティスト名・曲名・歌詞を入れていないか。これだけで大半が片付きます
  • 強い旋律フックのある曲は、一度自分で聴いて引っかからないか確認する。パッドやアンビエント系はスルーでかまいません
  • 何を入力したかの記録を残す。故意性が争点になったときの説明材料になります
  • 配布規約に「AI 学習データとしての利用禁止」を入れる
  • 配布規約に「著作権を保持」「クレジット表記を義務づける」と書かない
  • 音源ファイルのメタデータを確認する。サービスが振った ID から投稿ページやアカウント名へ辿れることがあります。消すのは自分が権利を持つ音源だけにしてください。他人の素材を含む音源だと、権利管理情報の除去にあたる可能性があります

まとめ

ドイツの判決は、Suno がどう学習したかを裁いたもので、あなたが作った曲を違法にするものではありません。裁かれたのは入口で、配る側が向き合うのは出口です。

その出口も、インストや BGM であれば保護の中心である旋律から距離があります。実務上はプロンプトに固有名詞を入れないことフックの強い曲だけ耳で確認することで足ります。人間が普通に作曲するときと、注意の量はたいして変わりません。

むしろ確実に対処すべきなのは、規約の転嫁とメタデータの除去のほうです。

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本記事は判決および公開資料をもとにした解説で、法的助言ではありません。実際の判断が必要な場合は専門家にご相談ください。判決は2026年8月7日時点で確定しておらず、控訴審で判断が変わる可能性があります。