この記事でわかること
- OBSの「ノイズ抑制」でリップノイズが消えない理由。設定ミスではありません
- ノイズを消すツールには「定常ノイズ抑圧系」と「クリック修復系」の2種類がある
- 録音前にできること。マイクを45度に振る、口の乾燥を避ける(RØDE公式)
- 無料で消すなら Audacity の Click Removal と Repair。その使い分け
- 確実に消すなら iZotope RX 12 の Mouth De-click(Elements には入っていません)か oeksound spiff
OBSに「ノイズ抑制」を入れたら、エアコンの音はきれいに消えた。なのに、しゃべり出しの「ペチャッ」だけが前より目立つようになった。そんな状態で検索してきた方が多いと思います。
結論:OBSのノイズ抑制フィルタでは、リップノイズは消えない
設定を詰めても消えません。そもそも、あのフィルタが相手にしている音ではないからです。
OBS公式のナレッジベースを読むと、ノイズ抑制フィルタの対象は「軽い背景ノイズやホワイトノイズ」と書かれています。PCのファン音のような環境ノイズには効くけれど、背景ノイズが大きいと効果は落ちる、とも書かれています。クリック音や口のノイズの話はどこにも出てきません。RNNoise も Speex も NVIDIA Noise Removal も、狙っているのは「ずっと鳴り続けている音」です。
リップノイズに効くのはまったく別のタイプで、クリックを見つけてその部分だけ作り直す「修復系」と呼ばれるものです。iZotope RX の Mouth De-click、Audacity の Click Removal / Repair、oeksound spiff がこれにあたります。
リップノイズ対策プラグインのセールを確認する
この記事で扱う iZotope RX は、セールでの値下がり幅が大きい製品です。いまいくらなのかを先に見ておくと、読みながら判断しやすくなります。
なぜ消えないのか — ノイズ除去には2種類ある
同じ「ノイズを消すツール」に見えても、中でやっていることが違います。
定常ノイズ抑圧系がやっているのは引き算です。エアコンやヒスのようにずっと鳴っている音の特徴をつかんで、その分を差し引く。AI型は学習モデルで声とそれ以外を分けますが、「後ろで鳴り続けているもの」と「手前の声」を分ける発想は変わりません。
リップノイズは数ミリ秒から数十ミリ秒で終わる一瞬の音です。ずっと鳴っていないので特徴がつかめません。しかも声とまったく同じタイミングで出るので、声の一部として守られてしまいます。
クリック修復系は引き算ではありません。波形が急に途切れている箇所を見つけて、その短い区間を捨てる。そして前後の音から「本来あったはずの形」を作って埋め直します。消しているというより、作り直している。
| 比較項目 | 定常ノイズ抑圧系 | クリック修復系 |
|---|---|---|
| やっていること | ノイズの特徴をつかんで引き算/声とそれ以外を分離 | 途切れを見つけて、前後から埋め直す |
| 得意な音 | エアコン、PCファン、空調、ヒス、暗騒音 | クリック、リップスマック、レコードのプチノイズ |
| 代表的なツール | OBS内蔵(RNNoise / Speex / NVIDIA)、Clarity Vx、Supertone Clear、Adobe Podcast Enhance | RX の Mouth De-click、Audacity の Click Removal / Repair、oeksound spiff |
| リップノイズ | 対象として挙げられていない | これが本来の守備範囲 |
| 使いどころ | 配信中のリアルタイム処理もできる | 基本は録り終わったファイルに対して |
💡 「効かない」と書いている根拠について
メーカーが「リップノイズには効きません」と書いた公式ドキュメントがあるわけではありません。公式が挙げている対象にクリックや口のノイズが入っていない。一瞬しか鳴らない音は定常ノイズとして拾えない。この2つが根拠です。かけて多少マシに聞こえることはあっても、それを目当てに買う製品ではありません。
手順1:録音前にリップノイズを減らす
録るときに減らせた分だけ、あとの作業が楽になります。マイクメーカー RØDE が公式に書いていることから。
マイクを45度くらいに振る
RØDE公式は、マイクを正面から外して45度くらい角度をつけると口のノイズの影響が減らせる、と書いています。感度の高いコンデンサーマイクほど声以外の口の音まで拾ってしまう、とも。お金がかからないので、まずここからでいいと思います。
口の乾燥を避ける。ただし根拠は弱い
同じくRØDE公式は、口のクリックに「口の渇きや脱水が関係している可能性がある」と書いています。水やガムを手元に置いて、口を乾かさないように、と。
ただ、書き方が「関係している可能性がある」であって「原因だ」ではありません。調べた範囲では、水分補給とリップノイズの関係をきちんと示した研究は見つかりませんでした。効果があったという体験談は山ほどあります。
ポップガードはリップノイズ対策ではない
ここは勘違いされやすいところです。RØDE公式がポップフィルターの効果として挙げているのは破裂音の低減で、「B」や「P」で始まる言葉の強い息が対象です。口のクリックに効くとは書かれていません。
ポップガードが防いでいるのはマイクに当たる空気の流れなので、口の中で鳴っている音には届きません。持っているのに消えないのはそのためです。
よく言われるけれど、裏付けが取れなかったもの
「青リンゴを食べるといい(リンゴ酸が効く)」「緊張が原因だからリラックスする」あたりはよく見かけます。ただ、出どころをたどると個人ブログやナレーション講師の経験談ばかりで、大元の資料は見つかりませんでした。効かないと言い切る材料もないので、試すのは自由です。
手順2:配信中(リアルタイム)にできること
配信しながらリップノイズを消す手段は、いまのところかなり限られます。
修復系のツールは、録り終わったファイルにかけるオフライン処理として作られているものがほとんどです。
そのうえOBSのVSTフィルタはVST 2.x にしか対応していません。いま出ているプラグインの多くは VST3 なので、使いたいものが見つかってもOBSに挿せません。
💡 配信中はどう組み立てるか
配信しながらできるのは「消す」より「出さない」です。手順1の物理対策を先に詰めてください。OBSのノイズ抑制フィルタ自体は環境ノイズにはちゃんと効くので、外す必要はありません。アーカイブを残すなら、配信後に手順3以降をかけましょう。
手順3:無料で消す — Audacity の Click Removal と Repair
Windows / macOS / Linux で使える無料の音声エディタ。追加費用ゼロで修復系を試せます。
Audacity にはクリックを消す機能が2つあって、性格がだいぶ違います。どちらも Effect > Noise Removal and Repair の中です。
Repair — 単発のクリックを1つずつ潰す
傷んだごく短い区間を取り除いて、その両側から作った音に置き換える機能です。選べるのは最大128サンプルまで。前後の音を材料にするので、選択範囲の片側に音が残っていないと動きません。
- 問題の箇所をだいたいの範囲で選択する
- 個々のサンプル(点)が見えるまで拡大して、範囲をできるだけ短く取り直す(マニュアルにも「範囲が短いほど結果は良くなる」とあります)
- Effect > Noise Removal and Repair > Repair を実行
- 拡大を戻して、修復した箇所の数秒前から再生して確認
- 不自然なら Edit > Undo で戻して、範囲を変えてやり直す
Click Removal — 範囲をまとめて処理する
選択した範囲からクリックを自動で見つけて処理します。4096サンプルを超える選択範囲が必要という制約があります。いじる項目は2つ。
- Threshold:下げるほど小さなクリックまで拾います。下げすぎると誤検出で声を傷めます
- Max Spike Width:クリックとみなすスパイクの長さ。大きすぎると誤検出、小さすぎると取り残しです
💡 Audacity で完璧を狙わないほうがいい
公式マニュアルは Click Removal を「とくにレコード盤から録音した音のデクリックに向いている」と説明しています。もともと口のノイズ用ではありません。すべてのクリックに効くわけではなく、幅の広いクリックは残ることがある、とも書かれています。Click Removal でざっとならして、残ったものを Repair で個別に潰す。無料でやるならこの組み合わせになります。
ただ、リップノイズが十数箇所ある長尺のナレーションを1つずつ手で直すのは、はっきり言って苦行です。ここで時間をお金で買う気になるなら、次の専用ツールが視野に入ってきます。
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手順4:確実に消す — iZotope RX 12 の Mouth De-click
口のノイズ専用モジュールを持つ定番。ただし、どのグレードを買うかで話が変わります。
ここが要注意なのですが、一番安い RX 12 Elements($99)に Mouth De-click は入っていません。Elements に付いてくるのは De-click / De-clip / De-hum / De-reverb / Voice De-noise / Repair Assistant の6つ。名前は似ていますが、この De-click は汎用のクリック除去です。口のノイズ専用の Mouth De-click はRX 12 Standard($399)から(最上位の Advanced は $1,399)。値段だけ見て Elements を買うと、目的のものが入っていません。
PROS
- 口のノイズ専用モジュールを持つ数少ない製品
- 検出の効き方を細かく追い込める
- セール時の値下がり幅が大きい
CONS
- Elements($99)には Mouth De-click が入っていない
- Standard は $399。配信目的だけには高い
- 基本は録り終わったファイルを直すためのもの
Deep Dive:Mouth De-click の主なパラメータ
以下は iZotope が公開しているRX 9 版のドキュメントをもとにしています。RX 12 で同じとは限りません。
Sensitivity:どれだけ多くのクリックを拾うか。上げすぎると破裂音まで削ってしまう、と注意書きがあります。
Frequency Skew:検出する帯域の重心。マイナス側はレコードのプチノイズ向けで、口のクリックには0以上が向いています。
Click Widening:修復する範囲を広げる項目。尾を引くリップスマックに合わせて使います。
1回で強くかけるより、2回に分けたほうが良い結果になることがある、とも書かれています。
まず Audacity で自分の素材を1本処理してみてください。これは手ではやってられない、と思ったら買いどきです。
手順5:トランジェント処理で消す — oeksound spiff
この記事で唯一、メーカー自身が「マウスクリックのために作った」と書いている製品です。
RX の Mouth De-click が問題の区間を作り直す修復なのに対して、spiff は入力に合わせて出っ張った音の出方そのものを整えます。20日間のフル機能トライアルがあるので、自分の声と自分のマイクで試してから買えます。ライセンス管理には iLok が必要です。
PROS
- 公式が「マウスクリック用に設計」と書いている唯一の製品
- 買う前に自分の素材で効果を確かめられる
- クリック以外のトランジェント処理にも使える
CONS
- iLok が必要(登録・認証の手間がかかる)
- 公式サイトに価格の記載がないので販売ページで要確認
- 「この1発だけ狙って消す」用途には修復系ほど向かない
間違えやすい:これらはリップノイズには効かない
どれも優秀な製品です。ただ、効く場所が違います。
| ツール | 公式が挙げている対象 | リップノイズ |
|---|---|---|
| OBS内蔵 RNNoise / Speex / NVIDIA | 軽い背景ノイズ、ホワイトノイズ、PCファン音などの環境ノイズ | 対象外 |
| Supertone Clear(通常 $99・買い切り) | voice / ambience / voice reverb の3要素の分離。公式ページに mouth noise・click・lip smack の記載なし | 対象外 |
| Waves Clarity Vx | 声以外の成分を抑えるタイプのノイズリダクション | 対象外 |
| Adobe Podcast Enhance(無料枠 約1時間/日) | 音声の品質改善。ブラウザだけで完結するのが売り | 対象外 |
| ReaFIR(ReaPlugs・無料・VST2) | Subtract モードによる定常ノイズの学習と引き算 | 対象外 |
「サ行のシャリつき」はリップノイズではない
よく混同されますが、これも別のツールの仕事です。
「サ」「シ」「ス」「ツ」が耳に刺さるあれは、リップノイズではなく歯擦音(シビランス)です。子音を出している間ずっと鳴っている音なので、波形が急に途切れるわけではなく、クリック検出には引っかかりません。
しかも消してしまうと言葉が聞き取れなくなります。声の一部だからです。だから除去ではなく、強すぎる分だけ抑える。それをやるのがディエッサーです。De-click と De-esser は名前が似ていますが、狙っている音も中身も別物です。
サ行の刺さりが気になるなら|ディエッサー おすすめ5選【2026年版】
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まとめ:症状で分ければ、買うものは絞れる
やることを順番に並べると、こうなります。
- 録音前:マイクを45度くらいに振る。水やガムで口の乾燥を避ける(RØDE公式)。ポップガードは破裂音用なので効きません
- 配信中:完全に消すのは難しい。OBSのノイズ抑制は環境ノイズ担当として併用する
- 無料で後処理:Audacity の Click Removal でざっとならして、残りを Repair(最大128サンプル)で潰す
- 本気で消す:iZotope RX 12 Standard 以上の Mouth De-click。Elements($99)には入っていません
- 試してから決める:oeksound spiff。20日間のフルトライアルで自分の素材を検証できます
まずは Audacity で自分の素材を1本、最後まで処理してみてください。どれくらい手間がかかるか分かってから有料ツールを見に行くほうが、たぶん失敗しません。
iZotope RX はセール時の値下がり幅が大きい
RX シリーズは Plugin Boutique のセール対象になることが多い製品です。Standard 以上でないと Mouth De-click が入らない。そこだけ確認して、いまの価格を見てみてください。
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