PUREVOX
ユーザーマニュアル — v2.0
PUREVOX は、ドライボーカルに残ってしまう耳障りな音を取り除く、オフラインの整音アプリです。ミックス前の下ごしらえに使う 4 つのモジュールを、処理する順に一列に並べています。
DE-CLICK— 口を開くときの「ピチッ」「チッ」という細かい口内ノイズDE-POP— 「ぱ」「ば」行で息がマイクに当たったときの「ボッ」という低い衝撃音DE-NOISE— 鳴り続けている背景ノイズ(エアコン・換気扇・機材のノイズ・部屋の暗騒音)DE-ESS— 「さ」「し」行の耳につく刺さり
音声を学習した AI で「作り直す」のではなく、入ってしまった音だけを差し引く方式です。DE-CLICK / DE-POP / DE-ESS は問題が見つかった箇所にだけ働き、それ以外の場所には手を触れません。DE-NOISE も、ノイズが含まれていないファイルは実質そのまま通過します。サステイン・ビブラート・ブレス・弱音・高域のエア感を保ったまま整えるのが得意です。
ノイズが含まれるファイルでは、声が鳴っていない静かな区間ほど処理の影響が出やすくなります(ノイズと一緒にわずかな暗騒音の質感が変わることがあります)。AMOUNT を上げるほどこの傾向は強くなるため、「ノイズが気にならなくなる最小限」で止めるのが最も自然に仕上がります。
向いている素材:ドライな歌録り。鳴り続けている背景ノイズ(エアコン・換気扇・機材のノイズ・部屋の暗騒音)、口を開くときの「ピチッ」という口内ノイズ、「ぱ」「ば」行の「ボッ」という破裂音、「さ」「し」行の刺さり。
不得意な素材:途中で変化する環境音(通り過ぎる車、外の話し声、突発的な物音、風の音、途中で強弱するエアコン)、声に強く被る広帯域ノイズ、別の人の声のかぶり。これらは対象外です。
共通しているのは「鳴り方が途中で変わる」ノイズであることです。常に同じ調子で鳴り続けているノイズほど得意で、鳴ったり止んだり・強くなったり弱くなったりするノイズほど苦手になります。低い音か高い音かは関係ありません(低くても鳴り続けていれば得意ですし、低くても途中で変われば苦手です)。
1. クイックスタート
PUREVOX.exeを起動します。- 音声ファイルを
OPENで開くか、ウィンドウにドラッグ&ドロップします。 - そのまま
PROCESSを押します(ノイズの指定は通常自動でOK)。 PLAYで再生し、ORIGINAL/PROCESSEDを切り替えて聴き比べます。- 気になる音に応じて
DE-CLICK/DE-POP/DE-ESSをオンにし、ノブを調整します。最初のPROCESS以降は、ノブを動かしたりモジュールを切り替えると自動で処理し直されます(手動でやり直したいときはPROCESS)。 - 納得したら
SAVEで WAV に書き出します。
2. 画面構成
ファイルバー(上部)
OPEN— 音声ファイル(WAV/MP3/FLAC/AIFF/OGG)を開きます。ウィンドウへのドラッグ&ドロップにも対応します。- 読み込むと、ファイル名・サンプルレート・ビット深度・チャンネル数・長さが表示されます。
波形表示エリア
- 読み込んだ音声の波形を表示します。
- ドラッグ:ノイズだけの区間を選択します(手動ノイズ指定)。
- クリック:再生位置を移動します(シーク)。
- マウスホイール:タイムラインを拡大・縮小します(カーソル位置が中心)。
- Shift + ホイール:横方向にスクロールします。
トランスポート(中央バー)
PLAY/STOP— 再生・停止。再生位置と全体の長さを表示します。ORIGINAL/PROCESSED— 再生音を原音/処理後で切り替えます(A/B)。再生位置は保たれます。
コントロールエリア(下部)
下部のバーはモジュールごとのセクションに分かれています。左から右へ、実際に処理される順に並んでいます。
DE-CLICK— オン/オフボタンとSENSノブ。DE-POP— オン/オフボタンとCUTノブ。DE-NOISE—AMOUNT/SMOOTHINGノブ(常時動作。オン/オフボタンはありません)。DE-ESS— オン/オフボタンとAMOUNTノブ。OUTPUT—DRY / WET/OUTPUTノブ。
その右側には、設定の出発点となる STARTING POINT の 3 ボタンと、ノイズの指定に使うボタンが並びます。
NATURAL/STANDARD/STRONG—DE-NOISEの出発点を選びます(詳細は §5)。NOISE FILE— 別のノイズのみ録音をノイズプリントとして読み込みます。CLEAR— ノイズ区間の選択とノイズファイル指定を解除します(自動に戻ります)。- 現在どの方法でノイズを見ているかが、ボタンの上に文字で表示されます。
右端が実行列です。
PROCESS— 現在の設定で処理を実行します。SAVE— 処理結果を WAV に保存します。- その下に進捗バーとステータス表示があります。処理中はファイル操作系のボタンが一時的に無効になります。
DE-CLICK / DE-POP / DE-ESS は初期状態ではオフです。必要なものだけ、各セクション上部のボタンでオンにしてください。オンになっているボタンは文字色が変わります。
3. モジュールとパラメータ
DE-CLICK(口内ノイズ)— 初期状態オフ
口を開くときに出る「ピチッ」「チッ」という細かい口内ノイズを取り除きます。フレーズの合間や歌い出しの直前に出やすい音です。見つかった箇所だけを直し、それ以外は素通しします。
SENS(感度)— 上げるほど小さなものまで拾い、下げるほど明らかなものだけに絞られます。- 声のアタックまで削って聞こえる場合は
SENSを下げてください。 - デフォルト: オフ(オンにしたときの
SENSは90%)
DE-POP(破裂音)— 初期状態オフ
「ぱ」「ば」行などで息がマイクに当たったときの「ボッ」という低い衝撃音を弱めます。破裂音と判断された箇所だけに働きます。
CUT— 破裂音の箇所でどこまで低い成分を削るかを決めます(画面にはHzで表示されます)。- 上げるほど「ボッ」はよく取れますが、その箇所の声の低い成分も一緒に削られます。声が痩せて聞こえたら下げてください。
- 低い声の男性ボーカルほど控えめ(低め)にするのが安全です。高い声なら少し上げても影響は出にくくなります。
- デフォルト: オフ(オンにしたときの
CUTは60 Hz)
DE-NOISE(背景ノイズ)— 常時動作
鳴り続けている背景ノイズ(エアコン・換気扇・機材のノイズ・部屋の暗騒音)を取り除きます。
AMOUNT(除去量)
- 値が大きいほど積極的にノイズを除去します。
0%は完全バイパスです。ノイズ除去を一切行わず、入力をそのまま出力します(A/B の基準として使えます)。- 中央(
50%)が初期状態の効き方です。そこから上げるほどノイズはさらに強く削れますが、そのぶん「キュルキュル」「シュワシュワ」とした金属的な残り方が出やすくなります。 - 下げるとノイズは残りますが、声のエア感や静かな区間の質感はより忠実になります。
- A/B しながら「ノイズが気にならない最小限」を狙うと透明に仕上がります。
- デフォルト:
50%(多くの素材で良好なバランスになる位置)
SMOOTHING(平滑化)
- 値を上げると、金属的なワブつきが減ります。ただし上げすぎると音がこもった印象になります。
- 値を下げると反応が速くなり、ノイズの変化に追従しやすくなります。ヒスのような穏やかな定常ノイズでは、下げた方が声のディテールが残ることがあります。
- 通常はデフォルトのままで問題ありません。迷ったら動かさないでください。
- デフォルト:
70%
DE-ESS(歯擦音)— 初期状態オフ
「さ」「し」行の耳につく刺さりを抑えます。刺さりが無いところでは何も起きません。
AMOUNT— 上げるほど強く抑えます。0%は実質無処理です。- 「し」が「ひ」に近づいて聞こえたら上げすぎです。少し戻してください。
- デフォルト: オフ(オンにしたときの
AMOUNTは50%)
OUTPUT(仕上げ)
DRY / WET
- 処理後と原音のブレンド比です。
100%で処理後のみ。下げると原音(ノイズ込み)が混ざります。 - 透明性目的では基本
100%のまま。ノイズをごく薄く残して自然にしたい時に下げます。 - デフォルト:
100%
OUTPUT(出力音量)
- 出力の音量(ゲイン)を調整します。再生と保存の両方に反映されます。
- 処理で音量が下がった分の持ち上げ(メイクアップ)などに使います。
- 範囲:
-24dB 〜 +24dB/ デフォルト:0.0dB
反映までの時間について
DE-CLICK の SENS と DE-POP の CUT を動かすと、ファイル全体を最初からやり直すため、反映までに時間がかかります(長いファイルほど顕著です)。
一方、DE-NOISE と DE-ESS のノブは途中結果を再利用できるため、すぐに反映されます。まず SENS / CUT を決めてから、AMOUNT 類を詰めると快適です。
4. ノイズの指定方法
DE-NOISE は「どこがノイズか」を知る必要があります。優先度の高い順に 3 通りあります。
① 自動(デフォルト)
- 何も指定しなければ、ファイル全体を見て各周波数のノイズ床を自動推定します。
- 曲の中に無音部分が無くても動作します。ほとんどの素材はこれで十分です。
- 画面下に
Noise: auto (whole file)と表示されます。
② 手動でノイズ区間を選択
- 自動でうまく取れない時は、波形上で声が入っておらず背景ノイズだけが鳴っている区間(曲頭の助走・フレーズ間・ブレス前後)をドラッグして指定します。
- ポイントは「無音(=音が完全に無い所)」ではなく「ノイズだけが鳴っている所」を選ぶことです。ここからノイズの指紋を採ります。
- 声やブレスが混じらない、純粋なノイズの区間ほど精度が上がります。
③ 別ファイルからノイズプリント
- 本編に無音が全く無い場合は、
NOISE FILEでノイズだけを録音した別ファイル(同じ環境のルームトーン等)を読み込みます。 - 最も確実な方法です。
迷ったら、まず自動のまま PROCESS。
声が削れて聞こえる/ノイズが残る場合に、② か ③ を試してください。
5. STARTING POINT(出発点)と微調整
NATURAL / STANDARD / STRONG の 3 つのボタンは、素材のノイズ量に合わせた出発点です。押すとその場で処理し直されるので、順に押して聴き比べるのが手早い使い方です。
この 3 ボタンが変えるのは DE-NOISE の AMOUNT と SMOOTHING だけです。
モジュールのオン/オフ、SENS、CUT、DE-ESS の AMOUNT、DRY / WET、OUTPUT は変わりません。ノイズの量は録音環境で決まりますが、口内ノイズ・破裂音・刺さりが出るかどうかは歌い方ごとに違うためです。
| ボタン | 向いている素材 | 変わるノブ |
|---|---|---|
NATURAL |
もともときれいに録れていて、気になる所だけ薄く整えたい | AMOUNT 15% / SMOOTHING 70% |
STANDARD |
ドライボーカル+軽いヒスノイズ。まずここから | AMOUNT 42% / SMOOTHING 70% |
STRONG |
空調・ルームトーンが強めで、連続して鳴り続けている | AMOUNT 76% / SMOOTHING 70% |
ファイルを読み込んだ直後の初期状態(AMOUNT 50% / SMOOTHING 70%)は、STANDARD より少し強めの位置です。STANDARD を押すと、初期状態よりわずかに控えめな設定に切り替わります。
そこからの微調整
- ノイズがまだ気になる →
AMOUNTを少しずつ上げます。STRONGより上ではノイズはさらに削れますが、金属的なワブつきも増えていくので、A/B しながら少しずつ動かしてください。 - 声が痩せた・エア感が減った →
AMOUNTを下げます。 - 金属的なワブつきが出る →
SMOOTHINGを上げます。逆に、穏やかなヒスだけの素材ではSMOOTHINGを下げた方が声のディテールが残ります。 - さらに自然にしたい →
DRY / WETを90%程度まで下げ、ノイズをごく薄く残します。 - 「ピチッ」「ボッ」「サ行の刺さり」が残る場合は、
AMOUNTではなく該当モジュールをオンにしてください。DE-NOISEを上げても、これらは取れません。
ノイズが入っていないファイルは、PUREVOX を通してもほぼそのまま出てきます。
一方、ノイズが入ったファイルでは、声が無い静かな区間ほど処理の影響が出ます。ORIGINAL / PROCESSED でフレーズの合間やブレス周りを重点的に A/B し、必要最低限の AMOUNT に留めるのがコツです。
6. 対応フォーマットと動作環境
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| OS | Windows 10 / 11 x64 |
| 種別 | スタンドアロンアプリ(ポータブル / インストール不要) |
| 入力形式 | WAV / MP3 / FLAC / AIFF / OGG |
| 出力形式 | WAV(元のサンプルレート・ビット深度を維持) |
| CPU | x86_64(GPU 不要) |
| チャンネル | ステレオ / モノラル |
MP3 等は内部で処理用の形式に変換し、書き出し時に元のサンプルレートへ戻します。
7. インストール・アンインストール
インストール
- ZIP を解凍します。
PUREVOX.exeを好きな場所に置いて起動します。
インストール不要のポータブルアプリです。追加の DLL やランタイムは必要ありません。
アンインストール
解凍したフォルダを削除するだけです。レジストリ等は変更しません。
初回起動時に Windows SmartScreen の「発行元不明」警告が出る場合があります。
詳細情報 → 実行 で起動できます(未署名のためで、動作に問題はありません)。
8. トラブルシューティング
- 声が削れる・こもる
DE-NOISEのAMOUNTを下げてください。- ノイズ推定がうまくいっていない可能性があります。§4 の ② 手動区間選択、または ③ 別ファイル指定を試してください。
- 背景ノイズが残る
DE-NOISEのAMOUNTを上げてください。- 途中で変化する環境音(通り過ぎる車・外の話し声・突発的な物音)や、別の人の声のかぶりは本製品の対象外です。
- 「ピチッ」という口内ノイズが残る
DE-CLICKをオンにし、それでも残るならSENSを上げてください。- 逆に声のアタックまで削れて聞こえる場合は
SENSを下げます。
- 「ボッ」という破裂音が残る
DE-POPをオンにし、それでも残るならCUTを少し上げてください。- 上げると声の低い成分も一緒に削られます。声が痩せたと感じたら戻してください(低い声ほど控えめに)。
- サ行が刺さる
DE-ESSをオンにし、AMOUNTを少しずつ上げてください。
- 「キュルキュル」した金属的なワブつきが出る
DE-NOISEのAMOUNTを少し下げるか、SMOOTHINGを少し上げてください。
- ノブを動かしてから反映まで待たされる
SENSとCUTはファイル全体をやり直すため時間がかかります(§3 のコラム参照)。先にこの 2 つを決めてから、他のノブを詰めてください。
- 起動できない・警告が出る
- SmartScreen 警告は
詳細情報 → 実行で回避できます。 - ZIP を解凍せずに実行していないか確認してください。
- SmartScreen 警告は
9. 注意事項
- 本製品はサポートなし・現状渡しの無料配布(フリーウェア)です。
- ソースコードは非公開です。
- 本製品の著作権は Tonecraft Tokyo に帰属します。
- 本製品の改変・リバースエンジニアリング・再配布・転売を禁止します。
- 商用・非商用を問わず無料でご利用いただけます。
- 本製品は pocketfft(FFT ライブラリ, BSD-3-Clause)および JUCE を使用しています。
